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最高裁判所第三小法廷 昭和49年(行ツ)102号 判決

名古屋市東区鍋屋町三丁目五一番地

上告人

林清隆

右訴訟代理人弁護士

尾関闘士雄

村松貞夫

名古屋市東区主税町三丁目一番地

被上告人

名古屋東税務署長

藤井友一

右指定代理人

平塚慶明

右当事者間の名古屋高等裁判所昭和四八年(行コ)第六号課税処分取消請求事件について、同裁判所が昭和四九年九月四日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人尾関闘士雄の上告理由について。

原審の確定した事実関係によれば、上告人が訴外富士一ビルデイング有限会社に譲渡した原判示の本件仮換地未指定地の占有使用権なるものは、区画整理事業施行者たる名古屋市の有する同土地の管理権に基づき上告人が同市から適法に付与された使用収益権をいうものであつて、独立に取引の対象たりうる財産的価値を有していたものと認められるから、これを他に譲渡することが旧所得税法(昭和二二年法律第二七号)九条一項八号にいう「資産の譲渡」にあたることは、明らかである。原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)に所論の違法はなく、論旨は、独自の見解又は原審の認定と異なる事実を前提として原判決を非難するにすぎないものであり、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高辻正己 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝 裁判官 江里口清雄)

(昭和四九年(行ツ)第一〇二号 上告人 林清隆)

上告代理人尾関闘士雄の上告理由

原判決には次のとおり法令の違背があり破棄されるべきである。

原判決は旧所得税法九条一項八号の解釈適用を誤つたものである。

一、原判決は第一審判決目録記載の土地(以下本件土地という。)の占有使用権を訴外富士ビルデイング有限会社に譲渡し、金五九二万円を受領し、右は同法の資産の譲渡に該当すると判断した。

(一) しかしながら、右資産とは、所得権等の本件占有使用権は同法にいう資産ではない。土地を占有使用できるのは所有権、地上権、等の本権の一権能に過ぎないものであり、本権を離れて独自に存在し得ないものであり、かように本権と無関係の占有は不法占有であり、かかる法律が容認しない占有はこれも資産ではない。

占有使用権が本件と離れて資産とされるものは、その占有使用が法律上適法であり容認されるものでなくてはならない。

(二) 本件土地についての上告人の占有は違法なものである。

本件土地は、昭和三五年当時名古屋市土地区画整理事業における換地未指定地であり、保留地ではないのである。

仮換地未指定地は、区画整理施行者において、単に管理者として占有管理するに過ぎない。即ち、施行者が未指定地を使用し得る法律上の範囲は、管理行為に限定されるものである。

従つて、施行者が未指定地について管理行為の範囲を逸脱した内容の占有使用を第三者に認めても右は違法であり、それは法律上の効果はなく、単に事実上の意味しか有しないのである。

本件について考えるに、上告人が土地区画整理事業施行者である名古屋市より承認を受けた本件未指定地の占有使用の内容は、他の仮換地と全く同様に、地上に強固な建物を建築し得る内容であり、現に本件地上には鉄筋コンクリート造三階の貸ビルの建築が承認され(乙第五号証)、実際には地上四階地下一階の鉄筋ビルが建築されたのであり、これはいわゆる管理行為を逸脱するものである。

上告人が名古屋市より承認を得た本件未指定地の占有使用権は違法なものであり、法律上許されないものであり、これを譲渡しても資産譲渡となり得ないものである。

二、仮りに本件未指定地の占有使用が適法有効だとしても、その譲渡をもつて独立の課税対象となり得ないものであり、資産ではない。

(一) 通常使用収益権なるものは、所有権、地上権、賃借権等本権により派生するものであつて、使用収益権自体が独自に存在するものではない。

しかし、土地区画整理事業はある程度の年月を要し、その間施行地区内の未指定地占有使用を許すことがあるが、右占有使用権は暫定的性質を有するものであり、将来所有権に吸収されるものである。

又、右占有使用権のみにては、法律上不安定なものであるから、当該土地上に強固な建物を建築した場合、当該土地の所有権を将来取得し得るということがあつてはじめてその占有使用権の取得に意味がある。

従つて、右占有使用権は、将来取得するであろう所有権を前提とし、かつ所有権に吸収されるものであるから、それ自体法律上の利益を独立して有するものではない。

(二) 上告人と富士ビルデイング有限会社との間での契約は、占有使用権譲渡契約との表題ではあるが、停止条件付売買契約と占有使用権譲渡契約とが一体となつた内容(乙第一号証中七、八、九項)であり、その占有使用権は将来取得されるであろう所有権に吸収されるのであるから、右契約に対する対価はあくまでも本件である所有権に対するものと考えるべきである。

とすれば、上告人が条件成就前に受取つた金銭は、占有使用権に対する対価ではないことになる。

その金銭は、将来条件成就のとき、売買代金に充当されるべき性質の借入金ないし預り金に過ぎない(和解調書甲第一号証)。

(三) 以上より、富士ビルデイングより受取つた金五九二万円を占有使用権の譲渡の対価として昭和三五年分の課税対象とした原判決は誤りであり、課税年度は、所有権を移転して条件成就した昭和四四年とすべきである。

三、上告人が富士ビルデイングから受取つた金五九二万円は同条の所得ではない。

富士ビルデイングからの受取金の趣旨は、上告人が将来、本換地処分の後に名古屋市より取得するであろう本件土地の所有権の条件付売買契約に対する預り金、あるいはこれを前提とする借入金である。

蓋し、前記の如く本件未指定地の占有使用権なるものが独立して存在しなければそれに対する対価など考えられず、結局本件未指定地について、右名古屋市との契約を背景に、上告人が将来本件未指定地を取得することを停止条件とする売買契約に関する金銭ということになるが、その金銭の授受当時、上告人は、本件未指定地の所有権を取得できないので、右売買契約の効力が発生せず、従つて、売買の対価とは評しえない。

結局、預り金ないし貸付金たる性質のもので、右条件成就のとき、売買代金に充当されるべき性質のものである(甲第一号証和解調書)従つて、本換地処分後、上告人が富士ビルデイングに本件土地を移転登記する際には一銭の対価も受領し得ないものとされており、正に本件土地の所有権の対価である。

以上

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